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情熱から生まれた、甘みの最高到達点

静岡市清水区の山間部、興津川の清流に沿って広がる「両河内(りょうごうち)」。静岡市清水区にあるこの地に、国産の茶葉を使った紅茶「和紅茶」を育てる山本早人さんがいます。静7132、つゆひかり、おくみどりなどの様々な品種を育てる山本さんは、「味よりも、香り」というこだわりのもと、お茶を作っています。土地の風土、手づくりの茶工場、そしてここまでの試行錯誤と未来への希望。山本さんのつくる和紅茶には、その挑戦によって導き出された甘みが詰まっています。

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二番茶の低評価から始まった、和紅茶という道

両河内で生産されるお茶は、昔から高い評価を受けてきました。山本さん自身も「第50回全国茶品評会・普通煎茶の部」で一等賞を取るなど、数多くの実績も残してきました。しかし二番茶になると茶市場では「味が薄い」と評価され、なかなか価格がつかなかったそうです。ここの土地柄は一番茶では活かされている一方で、二番茶の生産には不向きでした。

「両河内の一番茶は評価がかなり高くて取引ができるんですけど、二番茶は評価がすごく低くて、本当に値が安くなっちゃってる状態がずっと続いてたんですよね。」

代々この地で茶づくりを続けてきた山本さんは、二番茶の生産に長年課題を感じていたそうです。そんな中、農協からの提案を受け、14年前から二番茶で紅茶づくりを始めました。和紅茶の生産がまだ盛んでなかった当時、山本さんは先駆者としてこの地で紅茶づくりを開拓しました。最初の3年ほどはとにかく試行錯誤だったそうですが、少しづつ技術や品質が安定していき、今ではここ両河内は和紅茶の一大産地にまで発展しました。

静岡市清水区・両河内地区にある山本さんの茶畑
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普通の品種が生み出す、普通ではない味わい

紅茶は主に海外産の茶葉で作られます。「アッサム種」と呼ばれる大陸で主流のものは、葉が大きく力強い味わいをもつ特徴があります。また酸化酵素を多く持ち、発酵が進みやすいという特徴からも紅茶向きとされています。反対に、日本で主流の「中国種」は葉が小さく味わいも繊細なため、煎茶に向いています。

そんな日本にも紅茶専用の品種は存在しますが、山本さんが生産する和紅茶は、日本茶の王道「やぶきた」で作られたもの。最も主流な煎茶の品種として知られますが、紅茶にするとその出来は煎茶とは一線を画す仕上がりになります。赤褐色の水色の中には、熟した果実のような香り立ちと、無糖とは思えないほどの甘みが秘められています。海外の数ある紅茶とは異なるこの味わいは、新たな体験を提供します。

本来紅茶に向かない中国種の、さらに特別な香気成分を持たない煎茶の超王道品種を使った和紅茶で、なぜこれほどの甘さを生み出すことができるのか。そのヒントはこの土地のテロワール、そして山本さんのこだわりにありました。

数ある品種の中から、やぶきたが選ばれた。
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両河内の風土と工場での創意工夫

山本さんの茶畑は、興津川に面した場所にあります。川と茶畑の距離は、近いところではほんの数メートル。川から立ち上る霧や露がミストとなり、お茶の生育にとって絶妙な光の加減を演出します。また川の両側は高い山に挟まれ、大きな寒暖差が生まれます。良い山のお茶づくりに適した環境である一方で、二番茶にとっては難点でもあったそうです。露は乗りやすくも捌けにくく、冬は午後3時に日が沈むほど日照時間が短いそうです。そのため山本さんは斜面を利用して茶畑をつくり、この環境の中で日差しを確保してきました。

高い透明度を有する興津川。
斜面を段々にして茶畑を開墾した。

山本さんの工夫は茶畑だけでなく、茶工場にもありました。機械が所狭しと並べられた工場は、4mほどある高い天井がどこか開放的な雰囲気をもたらします。緑と赤、異なる色の鉄骨が使われているのには理由があるそうです。「32、33歳くらいの時に先代がほんの小さな面積で工場を始めたんですよ。」その面積は今の3分の1ほどしかなく、途中で山本さん自らが増設を開始したそうです。「自分が若いときにね、鳶の仕事をしてたもんで。だから溶接とかっていうことも自分でできたんですよ。」山本さんが自らの手で建設した赤色の部分は全体の3分の2ほどの面積があり、毎年の仕立て作業を支えています。

開放的な天井の茶工場。山本さんが自前で建てた、赤い鉄骨の部分。

さらに山本さんの紅茶づくりで特徴的なのは、使用する機械です。紅茶をつくる時、収穫された茶葉は一度発酵させます。煎茶にはないこの工程が、含まれるアミノ酸などのバランスを変化させます。発酵させるための機械を持たない山本さんは、なんと煎茶づくりに使う中揉機を代用しているそうです。本来は回転することで乾燥させながら形を整える機械ですが、山本さんの熟練した見極めによって発酵機としてのポテンシャルが引き出されています。手作業で状態を細かく管理し、専用の機械がない中でも整えられた味のバランスには、「自分の中ではこれでいいなっていう紅茶に仕上がっている」と自信をのぞかせています。

煎茶用の中揉機
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お茶の灯を守るための挑戦

山本さんは今、自宅から車で30分ほど離れた場所にある、離農者が手放さざるを得なくなった茶畑も引き継ぎ、そこでもお茶づくりをしています。かつて90軒近くあった両河内の茶農家は、東日本大震災後の風評被害や高級茶の需要減退、後継者不足などを背景に、いまや20軒足らずにまで減少しました。山本さんも例外ではなく、丹精込めて育てたお茶を届けるためには様々な試練があります。

山本さんが引き受けている茶畑

それでも、「茶農家は、決して悪い仕事じゃないと思うけどね」と遠くを見つめながら話した山本さん。そんなお茶の灯を絶やさぬよう、茶畑を引き継いだときから常に未来への道を模索してきました。実績十分の品質と「味よりも香り」の確かな基準、そしてまだ見ぬお茶の可能性への挑戦。この紅茶を淹れる時、試行錯誤が導いた「最適解」が、「香り」となって空間を鮮やかに彩ります。

この記事のお茶を、味わってみる。